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口腔ケア・歯科

海に潜る前にやっておくべき歯科検診|ダイバーが見落とす5つのリスク

2026/4/26

海に潜る前にやっておくべき歯科検診|ダイバーが見落とす5つのリスク

海に潜る前にやっておくべき歯科検診|ダイバーが見落とす5つのリスク

「次の海、楽しみだな」

そう思いながら、旅行用のフィンをバッグに詰めていた私の手が、ふと止まりました。

「歯医者、最近行ったかな……?」

去年、ダイビング中にバロドンタルジア(潜水時歯痛)を経験してから、海に行く前は必ず歯科検診を受けるのが私のルールになりました。

でもこのとき、ふと気になったんです。

「歯医者で『ダイビングするから診て』って、何を見てもらえばいいんだろう?」

普通の歯科検診と、ダイバー向けの歯科検診は、同じものなのか。違うとしたら、何を伝えればいいのか。

歯科衛生士として現場に立つ私だからこそ、改めて整理してみることにしました。

結論はシンプル。ダイバーが見落とされがちなポイントは、5つあります

今日はその話をします。


なぜダイバーには特別な歯科チェックが必要か

陸の生活では、多少の歯のトラブルは「ちょっとしみる」「噛むと違和感」程度で済みます。痛くなったら歯医者に行けばいい。

でもダイビングは違います。水深10mで気圧は2倍、20mで3倍になります。この圧力が歯に与える影響は、陸の生活では絶対に経験しないものです。

気圧の変化は、歯の中のほんの小さな空気の隙間を膨張させたり収縮させたりします。陸で問題ない歯でも、海では別の意味を持つのです。

つまり、ダイバーに必要なのは「いま痛くないか」ではなく「気圧変化に耐えられる状態か」を確認する検診です。


ダイバーが見落とす5つのリスク

歯科衛生士の視点で整理した、ダイバーが特に注意すべき5つのリスクです。

リスク①|古い詰め物・被せ物の劣化

最も多い見落としです。

10年、20年前に入れた銀歯やコンポジットレジン(白い詰め物)は、見た目は問題なくても、歯との境目に微小な隙間(マイクロリーケージ)が発生していることがあります。

陸では何の症状も出ない。冷水でしみることもない。でも気圧が変われば、その隙間がバロドンタルジアの原因になります。

伝えるべきこと:

「10年以上前の詰め物・被せ物があります。隙間がないか確認してほしいです」

リスク②|進行中の虫歯(特に初期)

「自覚症状のない虫歯」は、痛くなって駆け込むよりも、検診で発見されるケースの方が圧倒的に多いです。

問題は、前回の検診から半年・1年経っていれば、新しい虫歯が始まっている可能性があるということ。

虫歯の空洞は、気圧変化で痛みの原因になります。

伝えるべきこと:

「初期虫歯がないか、特に丁寧にチェックしてほしいです」

リスク③|根管治療(神経を抜いた歯)の状態

私のバロドンタルジアの原因も、実はここでした。

根管治療した歯は、神経を抜いた跡に微小な空洞が残ることがあります。さらに時間が経つと、根の先で炎症が再燃したり、ガスが溜まったりすることも。

レントゲンを撮らないと分からない部分なので、口頭で伝えて確認してもらう必要があります。

伝えるべきこと:

「過去に根管治療した歯があります。レントゲンで根の先の状態を見てほしいです」

リスク④|歯周病・歯茎の炎症

意外と見落とされるのが歯周病です。

歯周ポケットの深い部分に細菌感染があると、膿の周囲に気体が発生することがあります。これも気圧変化で痛みの原因になり得ます。

また、歯周病が進行した歯は、気圧変化で動揺することもあります。

伝えるべきこと:

「歯周ポケット検査もお願いします。歯茎の腫れや出血も気になっています」

リスク⑤|親知らずの炎症

最後が親知らず(智歯)です。

特に斜めに生えている親知らずや、半分歯茎に埋まっている状態だと、周囲の組織に空気が滞留しやすい構造になります。

普段は何ともなくても、気圧変化で炎症が悪化したり、激痛が出たりするケースがあります。

伝えるべきこと:

「親知らずの状態も確認してほしいです。ダイビングの予定があります」


「ダイビングします」と伝えるだけで変わる

5つのリスクを伝えるのが面倒なら、最初にこの一言を伝えるだけでも違います。

「私、ダイビング(潜水)をしています。気圧の変化を受ける活動です」

これを伝えるだけで、歯科医の見方は変わります。

圧変化に耐えられる状態か」という視点で、レントゲンを撮ったり、詰め物の境目を丁寧に確認したりしてくれる。普通の検診より一段階深いチェックが入ります。


検診のタイミング|いつ受けるのがベスト?

ダイビング前の理想的な検診タイミングを、歯科衛生士の視点で整理しました。

大物(海外ダイビング・長期滞在)の前

最低でも3〜4週間前、できればそれ以上の余裕を持って。

理由: - 万一虫歯や治療が必要な場合、処置と経過観察の時間が必要 - 直前に治療すると、仮の詰め物が入った状態で潜ることになる(NG) - 治療後すぐは歯が敏感になり、気圧変化に弱い

ただし、治療内容によっては3〜4週間では足りないケースも多くあります。

治療内容

必要な期間の目安

軽い詰め物・歯石除去

2〜3週間

大きな詰め物・被せ物の作成

1〜2か月

根管治療(神経の処置)

2〜3か月

抜歯(特に親知らず)

1〜3か月

複数歯の治療

数か月〜半年

つまり、「3〜4週間あれば必ず間に合う」わけではないのです。

私が今やっているのは、大物ダイビングの予定が決まったら、まず歯科に相談すること。「○月にダイビングがあるが、必要な治療は間に合うか」を最初に確認します。

歯科医に「ダイビングまでに完了する治療プランで」と伝えると、逆算したスケジュールを組んでくれるので、これがおすすめです。

国内・日帰りの定期ダイブの前

3か月ごとの定期検診で十分です。前回から症状の変化がなければ、追加チェックは不要。

治療直後のダイビング

最低2週間は空けるのが安全。 詰め物が安定するまで、気圧変化を避けるのが鉄則です。


検診費用と保険適用について

「ダイビング前の検診って高いの?」とよく聞かれます。

結論から言うと、通常の歯科検診と同じ料金体系で、特別高くなるわけではありません。多くの場合、保険適用で受けられます。

ただし、ここで注意すべきポイントが3つあります。

①具体的な金額は変動する

歯科診療の費用は保険点数で決まりますが、この点数は定期的に改定されます。「今いくら」と書くと、すぐに古い情報になってしまいます。

②自己負担割合は人によって違う

健康保険の負担割合は、1割・2割・3割と人によって異なります。同じ治療でも、3倍の差が出ることになります。

③クリニックによる差

検診の内容(視診のみ/レントゲンあり/歯石除去込み等)によっても料金は変わります。


安心材料|全額自己負担になることはない

それでも安心してほしいのは、通常の歯科検診は保険適用範囲内ということ。バロドンタルジアの予防目的であっても、虫歯チェック・歯石除去・歯周ポケット検査といった通常の診療として受けられます。

事前に費用を知りたい方は、予約時に「○○の検査を希望、概算で構わないので費用感を教えてください」と聞くのがおすすめです。

バロドンタルジアで海でのダイブを台無しにするコストを考えれば、事前検診への数千円〜は十分に意味のある投資です。


検診で見つかったら、どうする?

もし検診で問題が見つかった場合の対処です。

軽症(小さな虫歯・詰め物の劣化)

処置を受けてから2週間以上空ける。その間にダイビングの予定があるなら、延期推奨。

中等症(根管治療が必要・歯周病)

治療完了まで潜水を控える。根管治療は数回の通院が必要なので、計画的に。

重症(親知らずの抜歯・複数歯の問題)

抜歯後は最低1か月、複雑な処置後は3か月空けることが多いです。歯科医と相談を。


私が今、必ずやっていること

バロドンタルジアを経験してから、海の前は必ず以下をやっています。

  1. 3か月ごとの定期検診
  2. 大物ダイビングの3〜4週間前に追加チェック
  3. 歯科医に「ダイビングします」と毎回伝える
  4. 治療直後のダイビングは絶対しない

この4つを守っているおかげで、二度とあの痛みは経験していません。


まとめ|「歯科検診も、ダイビングの装備のひとつ」

フィンやマスクを揃えるのと同じように、自分の歯の状態を整えることもダイビングの準備です。

特別な検診を受ける必要はありません。「ダイビングしています」と伝えるだけで、5つのリスクを意識した検診になります。

次の海の前に、ぜひ歯科医院を予約してみてください。海中で痛みに苦しむより、陸で30分の検診を受ける方が、ずっと楽しいダイビングが待っています。


※本記事は歯科衛生士としての知識と自身の体験に基づいて執筆していますが、症状がある方は必ず歯科医師の診察を受けてください。